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「血しぶきどっぱー」について
先日映画館で織田裕二主演、森田芳光監督のリメイク「椿三十郎」の予告編が流れていた。なかなか映像も音楽も迫力があって期待できる作品になりそうだ。さすがに最後の決闘シーンは流していなかったが。
黒澤版この作品においては最後の三船敏郎と仲代達矢の決闘シーンがすごいとしか語られない。「血しぶきどっぱー」しか話題にならない。だが、それすら踏み込んで語られることが少ないようなので、私が少し踏み込んで語らせてもらおうと思う。
ポンプを使った出血シーンは前作の「用心棒」にて使用されているが、暗闇で見えにくかったので、あまり知られていない。それゆえこの「椿三十郎」が最初だと思われているが、そうではない。だが、「椿三十郎」がきっかけとなって血しぶきを使ったシーンが当たり前になったことは事実だ。アメリカ映画の「俺たちに明日はない」で銃撃シーンでの血しぶきが話題となったが、それは「椿三十郎」より後の'67年のことだ。
私が不満なのは、この決闘シーンにおいて血しぶきの量がすごいとしか語られないことだ。だが、このシーンを作るに当たって、黒澤は綿密な計算をしている。血のりが噴出すポンプを仲代達矢の身体に巻きつけたのだが、その際に役者たちには詳しく説明しなかったという。だから予想もしなかった量の血しぶきに役者たちはびっくりし、それが本物の驚きの表情を生み出した。斬られている仲代もその様子を見ている田中邦江らの表情のリアルさは黒澤が狙ったとおりのものだった。そしてもっとも重要なのは斬るまでの間の長さだ。
映画をごらんになった方はその間の長さに驚かれたろう。この長さは黒澤が綿密に計算した長さである。この長さでなければいけないという長さだ。三船と仲代が向かい合う。刀を抜かない。じっとにらみ合う。まだ抜かない。観客はその瞬間を固唾を呑んで見守る。そろそろ抜くか、まだだなあ。緊張が高まる。さあ、抜くぞ。まだ抜かない。どんどん緊張が高まる。やがて緊張は最高潮に達する。さあ、抜くぞ! あれ?抜かないな。決闘しないのかな? 観客の体から緊張が抜けたその瞬間、三船の刀が仲代を一刀両断、信じられない量の血しぶきが飛び散るという寸法である。観客はまるで自分が斬られたかのような錯覚に陥り、大変なショックを受ける。
血しぶきの量で観客を驚かす、同時に役者を驚かして本物の表情を出させる。なおかつ完璧な間を利用することで最大限の効果を上げる。こういった要素を上手く組み合わせて黒澤は歴史に残る名シーンを作り出したのだ。 |
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