ハッピーフィート HAPPY FEET        
本文へジャンプ  

 

3Dアニメの輝かしい到達点

 物語に完全に感情移入させられることを私は「船に乗せられる」と表現する。船に乗ってしまえば目的地までたどり着ける。つまり作り手が用意した感動の世界に到達できる。その意味でこの作品は「船に乗せてくれる」作品といえる。アメリカの3DCGアニメには優れた作品が多い。松本一志が「千と千尋の神隠し」より「モンスターズ・インク」にアカデミー賞を与えるべきだったといっているが、私も同意見だ。そして、この「ハッピーフィート」は数ある3DCGアニメの中でも頂点に君臨するといって差し支えないだろう。
 歌で自己表現するペンギンの国に生まれた主人公マンブル(英語で「モゴモゴ言う」を意味する)。両親は二人とも見事な歌い手であったが、彼自身はまったくの音痴。だが彼はタップダンスの素晴らしい才能があった。ダンスで自己表現するマンブルは異端者扱いされ、魚不足も彼のせいにされて国から追放されてしまう。エイリアン(人間)の乱獲により魚が不足しているらしいと知ったマンブルは彼を受け入れた小型ペンギンの国の仲間とともに、エイリアンを説得するための旅に出る
 最初に映像美に圧倒される。スケールの大きい南極の自然、その厳しい寒さの中で生き抜くペンギンや動物たち。かなり実写に近く感じられるほどリアルに映像が作られている。CGならではのカメラワークを使ったアクションシーン、見事な歌と踊りにはただただ圧倒され、ため息をつく。
 人間をCGで描くとき、リアルさを追求するとある時点で不気味になってしまうという問題がある。アニメ業界では「不気味の谷」と呼ばれている。人間が人間を見るときは特徴的なポイントのみを選んで認識している。CGでリアルに描こうとするとき、普段注目しないところまでリアルに表現してしまう。それがどうしても観客の目に映り、意識してしまうので、不気味に感じられる。2Dのアニメなら、ポイント以外は省略して描くのでこのようなことは起こらない。この作品ではペンギンであるが、擬人化しているので観客からすれば人間と同じである。そのペンギンの顔も非常にリアルに描かれているが、それが不気味になる手前で止められている。このさじ加減もよい。
 劇中で使われる歌もプレスリー、プリンス、アース、ウインド&ファイヤーなどなどのヒット曲が目白押しで楽しい限りだが、特筆すべきはダンスシーンの見事さだ。このダンスはセヴィアン・グローバーというタップの神様と呼ばれているタップダンサーの動きをモーション・キャプチャーと呼ばれている技術でCG映像に取り込んで作られたものだ。CGだから凄い動きをしているのではなく、セヴィアン・グローバーが凄いのだ。人を感動させるのは人そのものだ。
 映像美、歌、踊り、冒険スペクタクルシーンだけでも凄いが、それだけではない。個性とは何か。社会の中で個人のあり方はどう求められるか、個人はどうふるまうか、社会は異端の存在をどのように扱うべきか、友情とは、親子愛とは、環境問題を人類は真剣に考えているのか・・・大人がじっくり考えるに値するテーマがこめられていて深い内容となっている。
 登場人物(動物)もそれぞれ魅力的。小型ペンギンや敵の動物たちとの台詞の掛け合いも楽しい。特にノーマ・ジーンというマンブルの母親は立派である。両親そろって上手な歌手の間に生まれた音痴のマンブルをありのままに受け入れる。「母は強し」というが、実際はなかなかできるものではないだろう。
 それから環境問題。この作品を観ると、人間はなんと恐ろしいことをしているのだろうと実感させられる。乱獲、環境汚染を行う人類に水族館に入れられたマンブルが感情を失っていくさまは非常にぞっとさせられる。
 監督と脚本を務めたのは「マッドマックス」シリーズ、「ベイブ」などで知られるジョージ・ミラー。とてもアニメ映画初監督とは思えない。「ベイブ」は観ると豚肉が食べられなくなると聞かされていたので観ないようにしていたが、これを契機に観てみようかと思った。