賭博師へのあこがれ


 マジックをたしなみ、それなりの実力がついた者ならイカサマ賭博師にあこがれたことがあるのではないか。だがイカサマ賭博師で知っている人物の名を挙げてみよといわれて思い浮かぶ人はほとんどいないだろう。それだけヴェールに包まれた世界である。イカサマ賭博師は自分がイカサマ賭博師であることを他人に知られてはならない。知られたら最後、カモは自分を信用してくれなくなるので仕事ができなくなる。そしてもちろん警察に捕まったり、カモに復讐されたりなどといろいろ不都合が生じるから表に顔をだすということはない。派手に活躍してはならないのである。ポール・ニューマンの映画で「ハスラー2」という作品がある。これは賭けビリヤードの話であるが、ベテランハスラーのニューマンが若手ハスラーのトム・クルーズに対して時々は負けろと諭す。いつも勝ってばかりだと相手に敬遠されるようになり、勝負ができなくなる。よって収入が減ってしまう。能ある鷹なら爪を隠せというわけだ。この原則はどの賭け勝負ごとにもあてはまろう。
 そしてカード賭博師はマジシャンよりもずっとカードの扱いはうまいといわれている。私は本物のカード賭博師のカードさばきなど見たことはないが、上手いのであろうことはわかる。マジシャンはもし失敗しても恥をかいたり、仕事の量が減るだけだ。だがイカサマをやる人間が失敗すれば、逮捕されたり暴力を振るわれたり、大金を失うという羽目になる。うまくなければつとまるものではない。
 ラスベガスなどのカジノではイカサマに精通したディーラーを雇っているということだ。そういったディーラーは一部で、ほとんどのディーラーはイカサマを覚えることすら禁じられているらしい。カジノにとって一番怖いのはディーラーが客とつるんでカジノの金を巻き上げることである。それを防ぐために普通のディーラーがイカサマを覚えることを禁じているのだろう。その禁じられたディーラーのイカサマを見抜くためにはその道のプロが必要である。そして、客の運があまりによかったり、客がディーラーとつるまなくてもイカサマをしてくることはある。そのためにイカサマに精通したディーラーは必要となる。ブラックジャックなどは客がカードに触ることはないが、ポーカーならカードをすりかえられたりということもありうる。
 イカサマ賭博師はマジシャンよりもカードの扱いは上手いが、それはイカサマ賭博師がマジシャンよりも優れているということではない。両者の目的とするところが違うからである。マジックの観客はマジシャンが自分たちをだますであろうことをあらかじめ知っている。その観客たちに対してマジシャンは楽しみを与えるためにだましの技術を使う。それに対し、イカサマ賭博師はカモに自分たちがカモをだまそうとしていることを悟られてはならない。場合によっては金を騙し取った後もだましとおさねばならない。そして相手に楽しみを与える必要はない。だからマジシャンは結局はいかにして観客に楽しんでもらうかに心血を注ぐことになる。だが中には上手くだますための技術を磨くことにのみ心血を注ぐマジシャンもいる。そういったマジシャンはあまり売れることがないようだが。